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2012年10月14日 (日)

小曽根真 featuring No Name Houses ライブレポート 2012.10.13

 あの感動のトリオの公演から一月もたたないというのに、小曽根真はアメイジングなビックバンドを引き連れて僕たちのところへ帰って来た。小曽根真 featuring No Name Houses ”Road” ツアー最終公演を、グリーンホール相模大野で聴く。

 20043月にリリースされた伊藤君子のアルバム『Once You’ve Been In Love 一度恋をしたら』の発売記念ライブが、赤坂B♭で行われてからはやくも8年半の年月が過ぎた。あの左右に広がる赤坂B♭のステージに重なるように座り、ボーカルの伊藤君子・ドラムの海老澤一博夫妻を祝福すべく集まったこのメンバーたちの暖かい思いと限りない音楽への情熱は、千数百人の聴衆を迎える大ホールにおいても少しも変わることはない。むしろ公演を重ねれば重ねるほどタイトになってゆくバンドの一体感に、ジャズミュージック特有の親密さと微笑みが加わって、聴衆はファーストコンタクトで彼らに魅了された。

 一曲目はオスカー・ピーターソン作曲の”Noreen’s Nocturne”(未録音)だが、闇の中でひとりベースが歌いはじめ、続いてドラムが、そしてピアノが加わってリムズセクションがそろう。そこに、強力なホーンセクションが呼び入れられて演奏が一気に高みに登りつめるという、胸の高鳴る演出が準備されていた。これは、ストーリーテリングを意図する”Road”ツアーならではの趣向で、繊細な照明のワークに象徴されるステージングのすばらしさも、あわせて彼らの新境地と言ってよい。

 第一部では、小曽根をはじめとするメンバーのオリジナル楽曲が次々に演奏されたが、これはいわばこれまでの回顧。オリジナル楽曲でビックバンドジャズの最先端を切り開いてきた彼らのプライドであり、アンサンブルで対話するだけでなく、作品の読解を通じてお互いを音楽家として深く理解しレスペクトしてきたNo Name Houses たちの自画像である。もちろん、演奏は常にギリギリを攻めるチャレンジングなもので、僕たち聴衆に息をつく間も与えてくれない。最高峰のテクニックを誇るミュージシャンたちの稜線上のプレイを、心ゆくまで堪能することになった。特筆すべきは、トリオで演奏された”My Witch’s Blue” で、このビックバンドを支えるリズムセクションの強力さに改めて感動した。小曽根、中村の息のあった熟達のプレイは言うまでもないが、高橋信之助のドラミングが生み出すばらしいグルーブ感は、この小曽根作曲のユニークな楽曲をさらに新たな高みに誘っているかのようだった。もちろん、彼の音楽的進化は彼自身の才能によるものだが、No Name Houses での豊かな対話の経験が、彼を育ててきたことは間違いない事実でもある。僕は、彼がNo Name Housesに加入した最初のツアーから聴き続けているが、彼の成長はまことに凄まじいもので、それだけ内面的な葛藤も多かったのではなかったかと想像する。しかし、そうしたメンバーひとりひとりの歴史を抱え込みながら、そしてそのことをお互いに理解し尊敬しながら、今の時を迎えているNo Name Houses である。おそらくこれは、ひとり高橋だけに起きたことではない。

 第二部は、小曽根の新曲 “Road” (未録音)が演奏されたが、こうしたメンバーたちの思いをつぶさに表現し、さらにNo Name Houses の将来を指し示す特別な思いが込められた大曲であった。発足当時のNo Name Houses は、メンバーのひとりひとりが、小曽根とひとときでも長く一緒にいたい、演奏していたい、音楽の話をしていたいという思いが横溢したバンドだと、僕には見えた。演奏から、その喜びのパワーが溢れ出ていた。そして、それは八年の時を経た今でも少しも変わっていないように思われる。だがこの間、日本の政治経済は混迷を深め、そのうえに東日本大震災という未曾有の災害を経験することとなった。そして音楽の世界も激変した。現在がプロフェッショナルな音楽家にとって必ずしも幸せな時代でないことも事実なのである。結婚する、こどもが生まれる、こどもが成長する、ときには病魔にも襲われる。ひとりひとりに人生があって、かけがえのない家族もいる。人生は苦悩と葛藤だらけだ。しかし、その中にあって、小曽根真とNo Name Houses たちは、ミューズの顔を望み見て、自らの作り出す音楽の前にすっくと立とうとしていた。僕には、この46分にも及ぶ楽曲が、その宣言のように思われたのである。ひとりひとりが音楽の神に選ばれた高度なテクニックを持ち、それをプロフェッションとすることを許された幸せを、かみしめるように演奏する。15人のメンバーひとりひとりが、ソロパートを担当し、それを14人の仲間たちが豊かな対話の中で支えてゆくという構成は、一見派手ではないが豊穣な世界の開示であり、喜びのシェアなのであった。やがて、メンバーの思いはひとつとなって、すさまじいグルーブ感に導かれてゆく。最終ステージで、これでツアーが終わりこの愛すべきメンバーたちとしばし別れなければならないという愛惜の情も加わって、すばらしい演奏であった。その静謐なエンディングは、彼らの将来を十分に予感させるものであったと報告しておきたい。No Name Houses はまたすぐに僕たちのもとに戻ってくるであろう。

 アンコールでは、会場に聴きに来ていたピアニスト塩谷哲をステージに呼び入れての連弾、”Toil & Moil”。これはもう喜びがはじけたお祭り騒ぎで、セカンドアンコールの”Corner Pocket”とともに、聴衆を熱狂させた。前夜の伊藤君子に続いて会場に姿を現した海老澤一博の胸にも、こみあげてくるものがあったに違いない。

 小曽根真とNo Name Houses の冒険はこれからも続いてゆく。僕たちは、目を離すわけにはいかない。彼らと同じ時代を生きていることが、僕たちの誇りであり、ささえでもあるのだから。

20121013nnh

 

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