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2010年3月23日 (火)

「仰げば尊し」を歌う:とくダネ!

今朝のフジテレビ「とくダネ!」の特集で、卒業式に「仰げば尊し」を歌う中学校が紹介されました。

卒業ソングとして、ほとんど歌われなくなった「仰げば尊し」を、復活し、あるいは新たに卒業式で歌う千葉・埼玉・東京の三つの中学校を、
取材したものでした。

川越のある私立中学校では、文語の歌詞をプリントで配布し、生徒に意味をきちんと教えてから歌唱指導をしており、
先生方の十分な工夫と努力があってのことだとわかりました。

「仰げば尊し」には「蛍の光」同様係り結びの構文が用いられています。
私たちが小中学生だった数十年前でさえ、「今こそわかれめ」の「わかれめ」を「分かれ目」と思っているこどもたちが普通でした。
もちろん「わかれめ」の「め」は、係助詞「こそ」を受けた意志の助動詞「む」の已然形で、「わかれよう」という意味になります。
係り結びは、国語の授業できちんと教えなければならないことですが、この中学校では、歌を通じてそれを教えておられるようでした。
すばらしいことだと思います。

私が調べたところ、文部省唱歌の中で、係り結びが用いられているのは、「蛍の光」の「あけてぞけさはわかれゆく」とともに、
たった二例だけです。初期の唱歌にわずかに残った文語らしい構文なのです。

ちなみに、「あけてぞけさは」については、元東大総長だった蓮見重彦氏が、少年のころ、佐渡おけさからの連想で、
佐渡島のようなかたちのアメーバ「ゾケサ」を夢想して、ひとり恐怖していた体験を、名著『反日本語論』の中で書かれています。
歌が歌われなくということは、このような言語体験も失われるということです。

「仰げば尊し」は、1884(明治17)年に出版された『小學唱歌集』三編に掲載された歌です。作曲者・作詞者ともに、わかっていません。
初編の作成過程がわかる音楽取調掛の稟議書類のような一級資料が、まったく残されていないからです。
今後も、大発見でもない限り、特定は不可能でしょう。
楽曲も「蛍の光」のように讃美歌集に由来するものではありませんから、日本人が作曲した可能性もあります。
私は、とても美しい曲だと思っています。
明治の末年に、文部省は唱歌の中から外国曲を排除しました。「蛍の光」は、そのこともあって、教科書から消えたのです。
「仰げば尊し」などは、作曲者未詳であるがゆえに、歌い継がれたということかもしれません。

もう一点。「仰げば尊し」は、現在小学校6年生の教科書に掲載されています。ただ、今年横浜の公立小学校を卒業した次男は、まったく授業では触れられなかったと言っていました。教科書に掲載されているから残るというわけではないでしょうが、「蛍の光」より、やや有利な状況にあると言えるかもしれません。

ともあれ、「仰げば尊し」にあらわれる卒業式と在校生との掛け合いは、明らかに「蛍の光」のそれを踏襲したものであり、
日本の学校文化の中での卒業式の役割を、形成することに寄与しました。
そのことを忘れてはいけないと思います。

番組では、「仰げば尊し」の教師への尊敬を強調した歌詞に抵抗を覚え、とまどう中学生たちの、卒業式へ至る心の変化を追ってゆきました。
教師も保護者も生徒たちも、ひとつの歌を歌うことで、共通のエトスを見いだしえるのだということがメッセージとして伝わり、
たいへんすばらしい特集になっていたと思います。

卒業式のあるこの時期だけでなく、一年中、唱歌についてみんなが思い、考えてくださるとよいと念願します。

小倉智明さんがメインキャスターをつとめる「とくダネ!」には、弟も何度か出演させていただいており、私も休日にはよく見ています。

熾烈な視聴率争いのなかで、極めて良心的な番組作りに、心から敬意を表します。










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