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2006年5月27日 (土)

風邪の効用

 不覚にも風邪をひいてしまった。よく同僚と、予備校講師の仕事は、自分自身が心身共に健康で、やっと回していける仕事だね…という話をする。ほとんど毎日、帰宅後に授業の準備、プリント作り、そして添削とこなしていると、睡眠時間がほとんどなくなることも多い。そして、それは十数週間休みなく延々と続くのである。体調管理の大切さは、スポーツ選手のそれに匹敵するかもしれない。しかし、一学期が折り返しを迎えるこの時期、体調を崩す講師や生徒は極めて多い。新学期の緊張感から解放され、心と身体がちょっとゆるむ、そこへ春から夏への季節の変わり目がやってくる。特に今年のように、日々の寒暖の差が激しく、まるで梅雨が前倒しされたように雨の日が続くと、たとえ若者であっても身体がついてゆかなくなるのだ。加えて、容赦ない都市の冷房地獄。はめごろしの窓の電車が増えて、電車の中はいつも快適に…そして過剰に冷やされている。教室もそうだ。予備校の校舎は、たいていターミナル駅の駅前にあるからエアコンは必需品である。100人以上の若者の熱気は大変なものだから、大容量のエアコンが備え付けられて教室全体を冷やす。そして、生徒より高い位置にある(つまりは暑い)教壇の天井には、ご丁寧に講師用の吹き出し口までが準備されているのだ。ここから直撃する冷風が、身体に極めて悪い。R-body Projectの鍼灸師Oさんによると、例えば首は、10分程度冷風の直撃を受けただけで調子を崩すことがあるのだそうだ。僕自身は、身体が大きく暑がりなので、どうしても教室でジャケットを着るなど厚着をすることができない。それも、今回風邪をひいた原因かもしれない。

いまから、十数年前、新人講師だったころ、この時期の風邪をこじらせて、肺炎になりかかったことがあった。あまりに咳がひどいので、校舎近くの診療所に飛び込んだら、レントゲンを見た実直そうな医師が「肺炎です」と宣告する。「うちに入院施設があったら入院していだだくところですけれど…」僕はその宣告のほうにショックを受けたのだが、その医師にすすめられて自宅近くの病院へ行ってみると、今度は若いチャラチャラした医師が、「肺炎とまでいうのはオーバーだよね。ま、考え方によるけど…」とニヤリとし、それでも数日間抗生物質の点滴を受けさせられた。ともかくこの時期の風邪は怖いのだ。僕が、予備校で休講を出したのは、あとにも先にもそのときだけで、調子が悪い、首が痛い、といいながら、なんとか一日も休まずに今日を迎えられた。それは、プロ意識に支えられたといえばそうに違いないが、我慢できるほどの小さな病気にしかかかってこなかったということなのでもある。咳が出ればはやめに風邪薬を服用し、学期中に熱を出すところまで悪化させない。ともかく身体を持たせる。その反動で、シーズンオフの二月になると、必ず発熱を伴う大きな風邪をひき、数日寝込むのが常だった。恥ずかしいから人にはいわないが、なかなかたいしたプロ意識だと自惚れる気持ちがなかったわけではない。しかし、そうした考え方は根本的に間違っていたとやっと気づく年齢に僕もなった。

僕は、今回の風邪とつきあいながら、野口整体の創始者野口晴哉さんの『風邪の効用』(ちくま文庫)を読んだ。1962年に原著が出版されたこの書物は、僕にとっての健康の古典といってよい。野口さんはこう語りかける。「風邪ほど難しい厄介な病気はない。しかし、風邪をひくと身体が整う。つまり、身体の中に蓄積された鈍り、弾力を失った身体がもとにもどろうとする過程で風邪をひくのだ。だから、風邪自体が治療行為ではないかと考える。周りの突然大病を得たりや死を迎える人を観察してごらんなさい。そういう人は発病の前の数年は風邪もひかなくなったと言う人が多い。つまりは、風邪をひかないくらい鈍りが体内に蓄積されているということになる。そして、バタンといく。だから、風邪をひく人はそれだけ敏感で、風邪をちょくちょくひく人のほうが身体が丈夫なのである。」目から鱗が落ちるとはこのことだ。野口さんに言わせれば、風邪をひかないように、ひいてもすぐに治すようにしむけていた僕は、自分をどんどん大病や死に追いやろうとしていたことになる。つまり、自分の自然治癒力を全く無視していたわけだ。プロ意識うんぬんの話で自惚れている場合ではない。この本を読むと、風邪をひくことが喜びにかわり、風邪と共生する勇気が与えられる。すばらしい言葉のサプリメントだ。

もうひとつの忘れられない経験も書いておきたい。昨年秋から、友人のすすめでホメオパシーという代替医療に家族ぐるみで親しんでいる。もともとは、精神的に少し不安定なところのある長男の心の治療を目的にカウンセリングに通うようになったのだが、伝統医療のホリスティックな世界観に魅了され、僕自身も学び、生活の中に取り入れることにしたのだ。200年ほど前にドイツの医師ハーネマンが創始したこの療法は、同種療法ともいわれ、簡単に言うと「症状を引き起こす原因となるものは、症状を取り去るものともなる」という考えのもとに、原因物質を何百万倍にも希釈したものを「レメディ」という砂糖玉にしみこませ、それを患者は舌下で溶かすのである。その物質が、ほんとうに症状の原因物質であったときだけ、自分の中にある自然治癒力と呼応し、ヴァイタルフォースが活性となり、症状を回復させるというわけである。効き目がないときは、まったく反応がおこらず、したがって副作用が全くない。欧米やインドでは、一般家庭で広く受け入れられている療法である。ただ、回復の途中に好転反応がおこり、症状が一時悪化することがあるのが特徴である。

長男のカウンセリングの最後に、ホメオパシーの治療者(ホメオパス)にアドバイスを受けて、僕にあったレメディを購入し飲み始めた。前にも書いたが、僕には自称週末病という持病があって、仕事のある週日は元気にしているのだけれど、週末になるとひどい肩こり・頭痛が起き、寝込んでしまうということが、もう二十年近く続いていたのである。ホメオパスの先生にそのおはなしをして、ラストックスという毒蔦のレメディを薦めていただいた。最初の一週間は、就寝前に一粒ずつ飲んでみた。肩がやや軽くなった感じがして、ちょうど一週間目に宿便のようなものが出た。それから、様子を見るために一週間休み、しかし週末にまた頭痛がするので、土曜日の朝にレメディをとったら、そこから非常に強い反応が出始めたのである。扁桃腺が腫れ、ほぼ十年ぶりの38度の発熱、痰、そしてまず左の首の筋肉という筋肉がうなりを立てて痛みを発し、うずくまらずにはいられないような頭痛、そして、その痛みがやがて右の首に移動してきて…たぶん好転反応なのだと思うのだけれど、あまりにも最悪の事態に恐怖心さえ覚えたのだった。慢性病の場合、レメディを飲むことで、かなり強い好転反応が出ることもあると聞いていたが、予想外に強い反応に驚いたことだった。仕事はやすむわけにいかないので、ちょっと無理をして仕事をしたが、こんなにつらい一週間はひさしぶりの経験だった。しかし、回復してから、やはり僕の身体は、新しい局面を迎えたように思われた。ホメオパシーでは、発熱はよいことだと考える。出すべきものは出してやる…それが治癒の道だと教える。自分のヴァイタルフォースを信じてみる。結局それが、ほんとうにまっとうな道だと考えて、以来僕はアロパシー(通常の医療)の薬はほとんど使わなくなってしまった。もちろん、今回の風邪でも市販の風邪薬は一切飲んでいない。確かに回復は遅いが、自分の肉体と対話できるので、それはそれで楽しいことなのである。

しばしば、西洋医学と東洋医学の対立が言われるが、西洋の伝統医学にだってホメオパシーのような自然治癒力を活性にするような思想と実践とがある。そしてそれは、野口晴哉さんの『風邪の効用』の思想と軽やかに結びつき、僕を励ましてくれる。それはとてもすてきな「生活の智」なのである。西洋医学を全面的に否定するつもりはないけれど、やはりもうひとつ別の道を知っておくことは、人生に幅をもたせ、思慮深さを教えてくれるのではないか。そう思わずにいられない。

僕が講師室で、ズルズル鼻をかみながら『風邪の効用』を読んでいる姿を見て、隣に座る若い同僚が笑いながらこう言った。「先生はあくまでもポジティブなんですね」。そう…強くなくても、たとえ弱くても、ポジティブでなくては人生がつまらない。風邪も楽しまなければ…。野口さんは、こう言っている。「だから私などはよく風邪を引きます。ただし四十分から二時間ぐらいで経過してしまう。クシャミを二十回もするとたいてい風邪は出ていってしまう」。僕はというと、結局一週間風邪をひきっぱなしで、週末の同窓会をキャンセルしてしまった。どうやらまだまだ修行が足りないらしい。

ホメオパシー・ジャパン http://www.homoeopathy.co.jp/

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コメント

風邪もポジティブに・・・分かる気がします。

独身のときは仕事と社交ダンスに全力を注げたので、それが落ちつく時期、決まって新人を迎える直前の3月には3日間ほど寝込む程の風邪を引いていました。
自分の家庭を持つようになって寝込むこともできないとなると、大きな風邪は引かなくなり、小さな風邪で済むようになったと思います。

私のお気に入りは「tea tree」というエッセンシャルオイルで喉の調子が少し変かな、と言うときに数滴グラスの水に落としてうがいしています。5日くらいで改善しないと我慢できなくて病院にいきますが、それ程大したことないですね、と言われてしまいます。

風邪薬や抗生物質を使うほど体が弱くなるなんて怖いものです。即効性のあるものは何事も副作用が大きいですね。

僕も「tea tree」のエッセンシャルオイル愛用しています。足湯のときに、数滴たらすのです。とてもよい香りがします。うがいにも使えるのですね。今度試してみます。
同僚によると、最近の薬は強力らしいです。お医者さんにいって咳止めをもらったら、数週間続いていた咳が見事止まった…ということでした。お医者さんは、「咳を止めるだけだったらよい薬がありますよ。ただ、習慣性になるのが少し心配だけど…」とおっしゃったそうです。ありがたいことですが、やはり少し怖いですよね。
日々の疲れを残さないことが一番大切だと思います。毎夜、のんびりお風呂につかって…とは思うのですが、今のところ夢のまた夢…。足湯も時間があるときにしかしないから効果がありません。むしろ、忙しいときにこそ必要なんですよね。
mimikoさんも、お体に気をつけて元気に日々をお過ごしください。

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