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2006年5月 9日 (火)

「添削」はじまる!

スポーツジム「R-body project」が、肉体に関する優れたパーソナルソリューションを提供していることは、すでに述べたとおりである。若く意欲に満ち専門の知識を豊かにもったトレーナーたちに導かれて、僕もこの一年半トレーニングを続けることができた。結果から言えば、僕の肉体に起きた変化は予想以上のもので、ある意味で「生」の局面が変わったとさえ感じられるほどである。しかし、「R-body project」の魅力は、ヒューマンリソースのすばらしさにとどまらない。そのシステムと、それを支えるコンセプトが大変ユニークで優れたものなのだ。会員は毎月SOAPという身体計測とカウンセリングを受ける。身長・体重・体脂肪率などの客観的なデータの計測にはじまり、身体各部の運動機能、姿勢などが画像のよって記録され、データベース化される。そして、そのデータを見ながら、資格を持つアスレチックトレーナーが、ひとりひとりのクライアントと対話し、細かいアドバイスを与えながら翌月のトレーニングメニューを作り上げてゆくのである。詳細な分析によって、長期と短期の目標をふたつながら同時に示す。実に合理的で無駄のない、至れりつくせりのシステムといえよう。もちろんそれなりのコストはかかる。僕にとっても、入会には清水の舞台から飛び降りるくらいの決断は必要だった。今でも、身の程知らずだと思わないわけではない。しかし、この一年半の経験をトータルに評価すると、コストパフォーマンスはきわめて高いと言わざるをえない。なにしろ、「R-body project」は僕の「生」の局面を変えてしまっうほどの最終兵器なのだから…。

最高のサービスをひたすら享受し消費することは、ほんものの成功者、お金持ちにまかせておけばいいことだ。僕は、サービスを受ける以上に、ここから真剣に学ぼうと思った。そして、何かを学ぶことができれば、会費などのコストは、授業料にもカウンセリング料にも、また投資資金にもなるのである。もちろん、僕が学ぶのは、トレーニングの技法ではなく、広い意味でのマネジメント、教育的マネジメントなのである。これも前に述べたが、僕は小学生のころから、すでにして体育の評定で五段階評価の2をつけられていた劣等生である。もとろん運動能力はプアだが、それ以上に運動への意欲が全くない。スポーツらしいスポーツもしたことがない。そんな中年のクライアントに、高いモチベーションを与え、週二回のトレーニングを習慣づけるというのは、そう簡単なことだとは思えない。小さく具体的な目標を与え、それをクリアすることで達成感をもたせ、その小さな成功体験が、全体のビジョンの中でどういう意味を持つのかということをクライアントにきちんと納得させること。そして、クライアントに常に感動を与え続けること。これは、僕たち予備校講師にも全く共通した課題なのである。

教育の分野でもパーソナルサービスが、つまりは個別指導とか家庭教師のような形態が、苦手科目攻略の最善の方法だと僕は公言してはばからない。生徒にもそう言っている。教師というものは、その専門科目においてかつて優等生だった者がなることが多い職業である。だから、できない生徒の気持ちがほんとうの意味ではわからない。どこが、なぜわからないかも、わからないことすらある。僕もかつてそうだった。毎日二百人ほどの生徒を前にして講演会のような授業をしていると、その「できない・わからない」現実を見ないですむ。だから、何割かの生徒を確実に授業から疎外し、置いてけぼりをくわしてきたのだと思う。もっとひとりひとりの生徒に寄り添うことはできないか、ひとりひとりの「できなさ・わからなさ」に光をあて、彼らのモチベーションを上げ、しかも現実に効果をあげる方法はないかと、思っていたところだった。だから、「R-body project」のパーソナルソリューションのすばらしさには、感動した。そして、ひとりの教師として震撼した。こんな確実な学習法があることをすべての受験生や保護者が知ったとき、僕たちの今の仕事が成り立つのだろうか…いや、よしんばコストの面での要求によって今の一斉授業の形態が続いたとしても、おそらく旧態依然たる方法として、低い価格設定をよぎなくされ、同業他社との価格競争に陥ることは必至である。そんな低い足音が、ひたひたと近づいてくることを感じていた。折しも、僕の小学生の息子たちが、個別指導の塾に通い始めたのである。ときどき息子を迎えにゆくたびに、その塾は生徒の数が確実に増加しているようだった。

さて、僕が今ただちにできることは何か、そう自分に問いかけた。もちろん、予備校のシステムの都合上、いきなりパーソナルサービスに移行することは無理な話である。前にも書いたように、今年度僕が担当する最大のクラスは約170人の生徒が在籍している。全員を対象とすることなど考えられない。そこで古くからある教育技法「添削」をリニューアルし、システム化してみることにしたのである。国公立大学の二次試験には、論述型の設問が多く出題される。生徒が予習でつくりあげて来た解答を、授業後「添削」する、これが古くからの手法。僕は、生徒が予習でつくりあげて来た全文解釈を、授業前にチェックする方法を試みた。古文が長文読解科目である以上、解釈力は養成は必須のポイントといえる。そして、これなら、国公立クラスでも私大クラスでも関係なく実施できる。生徒たちは、テキストの本文の横に、一語一語置き換えた現代語を書き、「逐語訳(ちくごやく)」を完成させて僕のところへ持ってくる。午前8時の開校時間から受付を開始して、8時半で締め切る。それからの僕はというと、30分で十数枚集まったそれを赤ペンとマーカーとでチェックし、コメントをつけて授業5分前に生徒に返却するのである。正直全力疾走でへとへとになる。時間との勝負だ。でも、それをすることで、僕自身には豊かなフィードバックがある。生徒がどこで間違いやすいか、どう間違えたかをつぶさに見、それを新鮮なまま授業運営に生かせるからだ。生徒はというと、自分の間違えたところにマーカーがひかれているテキストを見て、めりはりのある受講ができる。間違えたところに、最大の集中力を発揮すればいいというわけなのである。お互いが、ちょっと頑張って早起きをすることで、共同体意識が生まれ、コミュニケーションがとれる。授業に対してよりアグレッシブなモチベーションが持てるようになるわけである。かつて、「添削」の横には、気合いを入れるために「頑張れ!」と書くのが常。「あと一歩!」と書くこともあった。でもそれを、「R-body project」のSOAPに学んで、チェックシートの添付に変更してみた。あなたが間違えたのは、この助動詞の意味の判定を間違えたからです、この助詞を見落としたからです、この単語を覚えていないからです、あなたは敬語の知識が全くありません、など。具体的な分析とメニューを示す。そして、短期的なプログラムづくりである。チェックシートの作成など準備に手がかかるが、教師である僕自身に、生徒から豊かなフィードバックがある。人は間違いからしか学ばない。とてもおもしろい、だがタフな仕事である。

「添削」をしていると、つくつく人には個性があるものだと思う。とても客観的な評価をしているはずなのに、ひとりひとりの生徒の顔が浮かんでくる。おつちょこちょい、小心者、楽天家、天才肌…全部全文解釈に出てしまうから不思議だ。「あなたは単語力が足りないね」。一週目は安堵する。二週目はまたかと落胆する。三週目になってやっと勉強がはじまる。それが普通の若者である。それでいい。それがいい。

四週目の今日、国公立のクラスでは「添削」持参の生徒が現れはじめた。みんな時間が守れない。はあはあ息をきらせながらやってきて、「先生、今日は遅くなったんですけど…」と言い訳する。「いいよ、今日だけね、来週から時間守ろうね。8時から来てますから」。安心して笑顔が戻る。だって、帰れとはいいにくい。僕だってかつて遅刻の常習犯だった。昔の自分とつきあっているのだ。全文を丁寧に単語にわけで数時間かけて丁寧に全文解釈した生徒がいた。朝忙しい僕のことを慮って、次の週の全文解釈をもってきた生徒もいた。なんていいやつなんだろう!そして、全文解釈の横に僕の似顔絵を描いて来た生徒もいた。つくづく教師は報われやすい職業だと思う。頑張るしかない。現代の若者、決して捨てたものではないのである。

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コメント

こんばんは。
すごい添削を始められたんですね。
先生もテストを受けているみたいです。

結構みんな相手の出方をよく観察している気がします。信頼できるかどうかじっくり観察して、大丈夫だと思ってから進むみたいですね。

先日恋愛のお話がありましたが、イマドキの大学生は燃えるような恋愛をあまりしないそうです。友人が10数年大学に通っていて、ゼミ旅行も教授に頼まれて参加しています。(占い師なので学生達に喜ばれるそうです)ここ数年は恋愛の相談がすごく減った、みんな傷つかないように深く思わないようにしているみたい、と言っていました。

この話を美容師さんにしたら、同じことを言っていました。もちろん全部が全部ではないですけど、そういう傾向にあるのかなぁと思いました。熱い思いを持った人に出会っていかないと・・・
生徒さんたち、これから刺激&影響を受けて変わっていく姿が目に浮かびます。

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