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2006年4月21日 (金)

音楽に感謝!

金曜日は町田で仕事。はじめての週末を迎える。水曜日から金曜日まで、午前中浪人生のクラスを2コマ担当し、夜、高校生のクラスを1コマ担当するというスケジュールになっている。浪人生と高校生の授業の間には、毎日6時間半の待機時間があるというわけだ。これがけっこう長い。自宅に近い横浜なら、いったん帰宅し、昼寝をしたり仕事をしたりすることもできるが、津田沼や町田になるとそうはいかない。いきおい、書店や家電量販店をそぞろ歩くことになったりする。無駄遣いが心配だ。

今日は、海老名に住む知人と町田駅で待ち合わせをした。昔、高円寺にあったジャズ喫茶「サンジェルマン」のマスター三野村泰一さんである。「サンジェルマン」は、僕が大学生の頃毎日のように通った店。僕は、この「マスター」からジャズとそして人生を教わった。ある意味で、東京の父のような存在である。この二十数年間お付き合いが続いてきたわけではない。僕が大学を卒業する頃、店は閉じられ、以来お会いする機会はなかった。昨年、三野村さんが、ひさしぶりに雑誌に寄稿されたことからご健在であることがわかり、編集者にお願いして、メールを取り次いでいただいたのだった。二十数年ぶりの再会は、やはりジャズのライブにしようとういうことで、昨年11月に渋谷オーチャードホールで行われた、僕の敬愛するふたりのピアニスト小曽根真さん塩谷哲さんのデュオコンサートをマスターの奥さまともども三人で聞いた。すばらしい音楽に酔いしれながら、僕たちは再会を心から喜んだことだった。

大学生のころ、マスターからこう問われたことを僕は今でも鮮明に覚えている。「チュンシャー(mid-westの広東語読み)、君は将来何をしたいの?どんな夢を持ってる?教えてよ。」僕がしばらく考えていると、「あっ、でもね、お金儲けっていうのはだめよ。お金儲けだけを目標にしたら悪いことしなくちゃいけなくなっちゃうからね」。三野村さんは、当時、スキンヘッドだった。目の深いところで微笑みながら、低い声で僕の心の中をのぞき込んできた。僕がなんて答えたかは忘れたが、この問いだけは記憶に残った。昔は、かっこいいこういう大人がいたものだった。今、僕自身が、あのころの三野村さんの年齢に達しようとしている。

三野村さんは、僕を町田のジャズ喫茶「Nica’s」に誘ってくれた。はじめてゆく店だった。大きなスピーカーから、アナログの柔らかな音が流れていた。ハードバップ、ビックバンド、ボーカル…次々になつかしいアルバムが登場する。「ああ、ローズマリー・クルーニーだ。サンジェルマンでもよくかかりましたね」と僕。「俺、ある意味で節操ないからね。いい音楽ならなんでも好き。これだけってことはない。だから、フュージョンやラテンの曲もよくかけてたしね。お客さんのほうがびっくりすることがあったよ」と三野村さん。しかし、その無節操のおかげで、僕はあらゆる音楽を聴き、学んだ。僕たちは曲を聴きながら、「サンジェルマン」開店のころのはなしや、当時の思い出、そして会わなくなってからのお互いの人生にとって、ぽつりぽつりと語った。それはほろ苦くもあり、滋味溢れるものでもあったが、僕たちにはかけがえのない豊かな時間だった。「こうやってさ、なにをするでもなく、おしゃべりするためだけに集まってさ、わけもなく何時間か一緒に過ごすっていうのは、大人になってから知り合った者どうしじゃできないよね。『ちょっと話があります』なんて言われると、かえって何言われるんだろうなんてかまえてさ。」三野村さんは、俺たちはお互いが大人になる前に出会った仲間なんだぜ…と言ってくれたようだった。僕はとてもうれしかった。60過ぎの初老の男と、40後半の中年の男ふたりが、なんとなく二時間の時を共有していた。「でも、俺には音楽があってよかったよ。音楽に感謝だな」最後に三野村さんは僕にそういって、僕たちは店をあとにした。僕は今、三野村さんに再会できた幸福をしみじみとかみしめている。音楽に感謝!

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コメント

はじめまして。
私はフランス語を勉強していますが、
最近は日本史と古典を高校時代に勉強しな
かったことをすごく後悔しています。
仕事はいろいろなことをしましたが、6年前に偶然NHKのテキストでフランス語を
はじめて、そうしているうちに通訳ガイド
試験を目指そうと最近決めました。
日本を知ることの重要性を今頃感じ、
日本史と古典をどう日常に入れていくか、
それが目下の課題です。
取り掛かりやすい本など、ご存知でしたら
教えていただけないでしょうか?
初めて訪問して、こんなに図々しい質問
してしまってすみません。

mimikoさん、はじめまして!ご訪問ありがとうございます。実は僕もモンテーニュを言語で読みたくてフランス語を勉強したことがあります。日仏会館の通信講座ですが、初級はなんとか終了したものの、次のレベルで挫折。語学はなかなかみにつかないものですね。でも、フランス語の枠組みというか、何をどう表現する言語化ということだけはわかりました。語学は、大好きな古典、そして作者に近づいてゆく唯一の道だと思います。
日本古典の概説書は実はたくさんあります。有名出典のあらすじなどを書いた本です。また、まんがもたとえば出ています。(『マンガ日本の古典』中公文庫)もし特定のお好きな作品があるのなら、そういう方法でアプローチするのもよいと思います。ただ、まず総括的に見るなら、各社からでている『国語便覧』が便利です。高校で使う教材を社会人用に編集し直したもので、一覧性は高いと思います。書店の、詩歌・古典コーナーにおいてあります。ただ、おそらく高校時代に経験されたと思いますが、暗記のための文学史の勉強ほど空しくつまらないものはありまません。和歌や俳諧のひとつでも暗記しておいて、なにかの時にそれが口をついて出て来る…それが古典に近づく方法かと思います。原文に接するなら、比較的読みやすい『徒然草』や『平家物語』がおすすめです。ただ、内容に好き嫌いがあるかもしれませんけれど…。角川文庫から、解説付きの入門書が出ています。
日本史のことはよくわかりませんけれど、日本史の講師とコラボレーションをして、古文と日本史を融合した楽しい参考書のプロジェクトがすすんでいます。もちろん受験生向けですが、社会人の方へも読んでいただけるものになるはずです。今秋の出版の予定です。詳細が決まりましたら、またお知らせしますね。
あまりお役にたてなかったかもしれません。語学頑張ってください。ありがとうございました。

おかげさまで書店で迷子にならずに、
気に入った本を見つけることができました。
どうもありがとうございました。
7日間で基礎から学び直す・・・というもの
で、読み方のポイントなど丁寧て、
楽しく少しずつ読んでいます。

古文を読むと日本人の本質がよく分かります。
フランス語で歌うシャンソンのサークルに
入っていたとき、原文の意味と日本語版は
随分ちがうことに驚きました。
最近は感覚がフランス的(?)になった
せいか、古文の面白さが分かる気がします。
外国人が異文化に興味を持つ感覚というか。

モンテーニュを読むためにフランス語とは
動機がすばらしいですね。語学ではそれが
本当は一番大事だと思います。
私は日本のいいところをたくさん知って
海外にアピールしていくのが夢です。

mimikoさん、少しはお役に立てたようでよかったです。僕も参考書頑張ってつくります。
フランス語に翻訳した『源氏物語』を読むと、物語の時間…というか「時制」のありかたがよくわかるのだそうですね。外国語が出来て、あらためて自国語をとらえなおすと、おもしろい発見がたくさんありそうです。「現代日本語」だけでなく「古文」という第三の軸を入れると、もっと豊かになるかもしれません。日本の聖書学者の中には、文語のほうが聖書に似合うということで、新しい文語訳を試みている方もいます。
僕もフランス語またやってみたくなりました。参考書買ってこようかな。

はじめまして。昔サンジェルマンの近所に住んでいました。
とても懐かしく記事をよませていただきました。サンジェルマン健在の頃、私はまだ年若く、奥深い話しは何ひとつ理解できなかったのですが、あの独特の香りを忘れることがありません。お店が無くなってしまったのは残念ですが、サンジェルマンの思い出がどなたかの心の中で生きていることを知って、とてもうれしく思いました。

30年ほど前にサンジェルマンでアルバイトしていた者です。思いがけず、ボス(三野村氏は従業員から尊敬をこめてこう呼ばれていました)の消息を知り、とても懐かしく、カキコさせていただきました。先週お店のあったエトワール通りを30年ぶりに歩き、思い出に浸ったばかりです。ボスが寄稿されていた雑誌を私も読んでみたくなりました。ずいぶん時間がたってからのカキコ、失礼しました。

ミッドウエストさん その後いかがですか
元気にしてますか そうであることを願っています

クーコさん 以前サンジェルマンでアルバイトをしていたそうですね
時がたつのは早いですね 
音楽出版の 「ブラックホーク伝説」「B級ジャズ名盤101」「101人のこの一枚」
にでています
      

boss!
書き込みありがとうございます。
またたいへんご無沙汰しています。
今年はジャズシンガー神谷えりさんのライナーノーツを書かせてもらいました。
近日中にお送りします。
クーコさんからのメッセージもお届けしなければならないと思って今日になりました。
ごめんなさい。
是非サンジェルマン同窓会企画したいと思います。
僕は高血圧に悩まされながら(薬をのんでますから無事です!)なんとか頑張っています。
今忙しさの佳境です。

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